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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)15385号 判決

原告

加藤菊代

ほか二名

被告

小松崎昭

主文

一  被告は原告加藤菊代に対し金二一一万円、原告加藤太郎、原告駒井美智子に対し各金一七六万円および右各金員に対する昭和四四年一月一八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その一を原告らの連帯負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告ら)

一  被告は

原告加藤菊代に対して 金三四〇万円

原告加藤太郎に対して 金三〇〇万円

原告駒井美智子に対して 金三〇〇万円

及び右各金員に対する本訴状送達の日の翌日より右完済まで年五分の割合による金を各支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

(被告)

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

(原告ら)

一  事故の発生

訴外加藤清己は次の交通事故により死亡した。

(一) 日時 昭和四三年一月二二日午後七時四〇分頃

(二) 場所 文京区小石川四丁目二〇番一号先交差点付近

(三) 被告車 大型クレーン車(足立八な二八〇二号)

運転者 被告

(四) 態様 歩行横断中の訴外加藤清己が右交差点を左折中の被告車に轢過され、心臓破裂により即死した。

二  責任原因

被告は被告車の所有者で、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任がある。

三  損害

原告らに生じた損害は次のとおりである。

(一) 葬儀関係費用 三三万七二九三円

亡清己の葬儀のため、原告菊代が出捐を余儀なくされた費用である。

(二) 亡清己の逸失利益

(1) 職業 都立小石川工業高等学校教諭兼私立安田学園講師

(2) 年令 事故当時六二才

(3) 収入 小石川工業高校

昭和四三年二月~一二月

一八六万九六九二円

昭和四四年度 一八九万四三二四円

昭和四五年度から昭和四九年度まで各年一九〇万五二〇八円

安田学園

昭和四三~四九年度まで各年一三万六五八〇円(但し昭和四六年一月分を控除)

(4) 稼働期間 亡清己は健康な男子で一三・七年の平均余命を有し事故後七年間は就労可能であつた。

(5) 生活費 年三六万円(扶養家族は妻菊代、長男太郎、実母ハルケサの三名)

(6) 中間利息の控除

年五分の割合による各年毎ホフマン式計算(小数点以下二桁まで)

(7) 現価 九二六万一七六八円(各年毎の総収入から生活費を控除したものに、該年数のホフマン係数を乗じ、それを合計した金額である。)

(8) 相続分

原告菊代 妻 三分の一 三〇八万七二五六円

原告太郎 子 三分の一 三〇八万七二五六円

原告美智子 子 三分の一 三〇八万七二五六円

(三) 慰藉料

亡清己は昭和二一年から二〇余年にわたり小石川工業高校に奉職し原告ら妻子にとつて物、心両面の支えとなつていたものであつて、原告らが受けた精神的苦痛は著しい。よつて原告らには各自一〇〇万円をもつて慰藉するのが相当である。

(四) 損害の填補

原告らは自賠責保険金を各一〇〇万円宛(合計三〇〇万円)受領しているので、これを各自の損害額から控除する。

(五) 弁護士費用

原告らは本訴追行を原告ら訴訟代理人に委任し、このため訴額の一割にあたる弁講士費用(原告菊代三四万円、原告太郎、原告美智子各三〇万円)の支払を余儀なくされたので、これを損害として請求する。

四  よつて原告らは被告に対し、原告らの右各自の損害のうち本訴においては原告菊代三四〇万円、原告太郎原告美智子は各三〇〇万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四四年一月一八日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五(一)  被告主張第二項の(一)の事実中、被告に過失なく、亡清己に過失があるとの点を否認する。

被告は反対側歩道で信号待ちをしている亡清己他二名の横断歩行者のうち、他二名の横断に際しては注意をしていたが、亡清己の横断は失念し、左折を敢行したため本件事故が発生したものであり、亡清己は青信号に従い横断歩道上を横断していたのに、被告車が停止することなく進行接近してきたものであるので、同歩道外直近の歩行を余儀なくされたもので、亡清己に責めるべき過失はない。

(二)  被告主張の稼働期間については、退職はあくまでの勧告にすぎず、強制力はなく、六三才で勧告に応じたものは都教育庁の報告によれば昭和四六年度において五七名中三一名であり、六六才以上の教諭は全日制高校に四三名、定時制高校に二七名いるのである。

又退職に応ずれば退職時の二等級三七号の本俸九八〇八八円より特一級となるのであつて退職金は約一〇〇万円増加する計算となる。さらに亡清己本人も教壇に立つことに生甲斐を感じており、長男の原告太郎が大学を卒業し一人前となつて家庭を持つまでは勤めるといつていたものである。遺族年金については遺族の生活保障の意味のものであつて、被告の損害賠償債務を填補すべきいわれはない。

(被告)

一  原告ら主張第一項記載の日時・場所において被告が被告車を運転して通過したことは認めるが、その他は不知。同第二項中、被告が大型クレーン車の保有者であることは認めるが、被告の損害賠償義務については争う。同第三項の損害額については争う。

二  被告の主張

(一) 免責ないし過失相殺の主張

(1) 被告の運転状況

被告は大塚仲町交差点より春日町交差点方面に向つて進行し、小石川四丁目交差点に差しかかつた際、赤信号であつたため、一旦停車し、青信号に変つてから最徐行で通称エーザイ通りに向つて左折を開始した。

進発左折に際しては、左右の安全確認を行ない、横断歩道上を右方から左方に向つて歩行する二人の人影を認めたので、その二人の通過を待つて進行を開始したものである。

その際、横断歩道上にも、その直近にも他に人影はなかつた。

(2) 被害者加藤清己の横断状況

被告車と加藤清己の接触地点は、横断歩道の外側線から約四メートル、被告車進行車線の道路側端から約四メートルであるが、前記の被告車のスピードから推定して、被害者加藤清己が車道上に進入した時期は、被告車が横断歩道を横断し始めた時期よりやや遅かつたものと考えられる。

しかも加藤清己は道交法第一二条に違反して横断歩道外の外側を横断したものである。

その地点は、横断歩道の外側約四メートルの所である。

更に加藤清己は道交法第一三条に違反して被告車の直前を横断したものである。加藤清己は当時、左方から右方に向つて車道を横断したものであるが、車道に進入するに際して被告車がクレーン車という特殊構造(全長一一・八六メートル、幅二・四九メートル)のものであるから、その動静に注意をして、安全確認の上歩行を開始するべきであるのに、無暴にもその動静を無視して、前記のとおり横断歩道外の被告車の直前を横断しようとしたもので、その過失は重大である。

(3) 信頼の原則

被告は、前記二、(一)(1)記載のとおり左折開始に当つては、左右の確認、安全運転義務違反がなかつた。

被告車は前記のとおりクレーン車という特殊構造のものであるから、運転者として特別の注意義務を負うであろうが、その半面万全の注意を払つていれば車体の構造上、死角内において、被害者の過失によつて起るであろう事故に対して被告の過失責任を問うことは衡平の原則に反する。

自動車運転者としては、歩行者が無暴な横断をしないであろうことを信頼して運転するものであるから、歩行者と雖も運転者の信頼に背くべきものではない。

従つて被告は無責である。

(4) 過失相殺の主張

仮りに被告に責めるべきものがあつたとしても、被害者の重大な過失が競合して本件事故を発生せしめたものであるから、その限度において過失相殺を主張する。

(二) 損害についての主張

訴外亡加藤清己は事故当時、東京都立小石川工業高等学校に教諭として稼働していたものであるが、東京都教育庁に問合せたところ、定年制はないがこれに準ずるものとして管理職(校長)の場合は満六〇才をもつて勧奨退職の年限とし、一般教諭の場合は満六三才をもつて高令退職の年限としているとのことである。

ところが加藤清己は、事故当時既に満六三才であつたから昭和四三年三月末をもつて高令退職すべき筈であつた。

従つて原告ら主張の残余の就労可能年数七年間というのは相当ではない。

更に逸失利益の計算に当つて留意すべきことは、地方公務員等共済組合法にもとづく遺族年金の支給制度である。同法によれば、地方公務員として二〇年以上稼働した受給資格者が死亡した場合、遺族に対して遺族年金として前記退職年金の五〇%を支給されることになつている。

従つて遺族の受くべき遺族年金額は逸失利益から控除されて然るべきものである。

第三証拠関係 〔略〕

理由

一  被告が、被告車を運転して、原告ら主張の日時・場所の交差点を左折したことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕から、訴外加藤清己が横断歩行中、被告車に轢過され、死亡したことが認められる。そうすると、被告が被告車の保有者であつて、これを自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがないので、被告は自賠法三条による責任があると言わなければならない。

二  そこで本件事故の態様ならびに過失関係について判断する。

前掲証拠ならびに弁論の全趣旨によると、

(一)  本件事故現場の状況は凡そ別紙図面のとおりである。

(二)  被告は被告車を運転し、図面〈1〉の地点で信号待ちをした後、同図面矢印記載の如く左折進行した。

その走行速度は五~一〇キロメートル程度の緩速度であつたが、横断歩道手前では一旦停止をしていない。又被告は轢過するまで亡清己の動静について明確な認識はない。

(三)  亡加藤清己は被告車に轢過され、図面〈害〉の地点に転倒していた。

(四)  訴外松島喜代子は運転免許取り立てで、車に興味を持つていたため、ブームを突き出した被告車に特に注意を払つており、その動きをながめていたが、別紙〈×〉地点付近で、訴外清己が被告車左前部に接触され、その車輪の間に入り込むようにして轢過されるのを目撃した。

(五)  被告車が信号待ちをしている間、同じくその左斜前の横断歩道の向い側の歩道には訴外峰尾春利とその同僚一名が信号待ちをしていたが、その際もう一名同人らと同じく信号待ちをしている男性がいた。同人らは信号が赤から青に変つたので、横断歩行を開始し、被告車が左折して横断歩道に来る前に、その前を横断し終り、さらに歩道に上つて松島喜代子とすれ違つた直後、同女の悲鳴を聞き、振り返えると亡清己が路上に転倒していた。

の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる確証はない。

ところで亡清己の事故にあう直前の行動については、必ずしも明らかではないが、訴外峰尾の刑事公判廷における証言および前掲証拠から認められる亡清己の勤務していた学校の位置が、峰尾らが信号待ちをしていた方向にあることから、同人らと一諸に信号待ちをしていたのが、亡清己であつたとの蓋然性が高いことがうかがわれる。

次に亡清己が横断歩道外を当初から横断したということについてはこれを目撃した証人は全くなく、又被告本人からも横断歩道外であれば、被告車の死角に入る以前において、亡清己の動静に気づいた筈であるのに、被告は全くこれに気づいていない。そうすると、接触、転倒地点は図面の位置付近であるとしても、これをもつて当初から横断歩道外を亡清己が横断歩行したということを認定することは困難であると言わなければならない。寧ろ、被告車が横断歩道手前で停止することなく進行して来たのに驚いた亡清己がこれを避けようとして横断歩道外に出たかあるいは被告車の速度が緩速度であつたため、横断歩道付近にさしかかつた被告車の前方を横断できると思つてやや横断歩道外に出たと見るのが相当と思われる。接触時においては、多少被告車の左前部で亡清己の位置が、被告車進行方向に移行した蓋然性もある。

被告はその捜査官に対する供述調書において、亡清己の横断する際の信号待ちの状況に気づいたのに、これに対する注視を欠いた旨の自白も特にその任意性を疑うに足りる証拠は提出されていない。

以上の諸点を考慮すれば、被告は横断歩道を横断する歩行者に対して万全の注意を払うべきなのにこれを怠つたまま左折した過失があると言わざるを得ない。

被告は種々弁疎しているが、被告の所為による犯行と判明する以前において該事故現場付近を走行していたか否かということを事情聴取の捜査官に尋ねられ、別のルートを通つた旨の虚偽の事実をつげているなど、被告の刑事公判廷における供述のみが唯一の真実と見ることにはいささか疑問があると言わなければならない。

よつて、被告には横断歩行者に対する注視を欠いた過失があるので信頼の原則を適用すべき余地はない。もつとも亡清己においても、緩速度で被告車が近接していることは当然分つた筈であるから、念のため一歩踏みとどまつて、これをやりすごしてから横断すればよかつたとは言いうるものであつて、亡清己に全く落度がなかつたとは言い切れない。しかし、その過失の程度は極めて小さいと言うべきであり、ほぼ五%の過失相殺をすれば十分であり、よつて後記損害の算定に際し、右限度の減額をすることとする。

三  損害

(一)  葬儀関係費用

〔証拠略〕によると、原告菊代は亡夫清己の葬儀のため、その主張の費用を出捐したことが認められ、これに亡清己の社会的地位、年令前記亡清己の過失等を斟酌すると、本件事故と相当因果関係のある出捐で被告に請求しうる金員は三〇万円と認められる。

(二)  亡清己の逸失利益

〔証拠略〕によると、

亡清己は二〇年以上教諭として都立小石川工業高校に勤務し、同校から昭和四二年度において一七三万五九九九円(内税金一四万八八〇〇円)の年収を得たほか、安田学園にアルバイトに行き同年度において一三万六五八〇円(内税金八一九〇円)の年収を得ていたこと、亡清己の家族は、妻原告菊代、子原告太郎、原告美智子、母ハルの三名で、原告美智子を除いた三名は亡清己の扶養家族となつていたこと、本件事故当時亡清己は満六二才の健康な男性であつたこと、都立高校においては定年制はないが、六〇才~六三才以上の者を対象に、いわゆる勧奨退職の慣行があり、これにより人事の刷新と年功序列による給与体系の是正が行われていること、勧奨退職に対しては退職金の面等で退職者に優遇措置がとられていたが、都立高校教諭においては家庭の事情等によりこれに応じないで勤務を継続する者も相当数いること、

の各事実が認められ、この認定を左右するに足りる確証はない。

そこでまず、亡清己の稼働期間ないし退職時について判断する。

特定の職種の者の稼働期間については、単にその者の主観的意図のみならず、当該職種の内容、客観的な肉体条件、当該職場における常態、定員、給与体系等を綜合的に勘案し、社会一般から見て誰しもが相当であると考える期間に限定して、将来の稼働期間を予測すべきであるところ、亡清己は本件事故当事既に六二才であつて、都立高校の教諭としては早晩後進に道を譲るため退職を考えなければならない立場にあつたと言うべきで、社会的に見ても、年功序列における給与体系の面や、高校教諭の定員数の点からも、又一般私企業の労働者の定年との比較においても、退職が相当程度余儀なくされる立場にあつたものと言うべきである。そうすると、原告ら主張の如く前記高校で今後七年間稼働しうるという前提のもとに逸失利益を算出することは難かしいと言わなければならない。

しかしながら、本件全証拠によるも亡清己の労働能力に欠けるという点は見当らず、一応前認定の如き高校教諭としての収入および安田学園からの副収入を得ていたこと、その教科内容は電気関係であること等の事情を考慮すれば他に就職し、あるいは多少退職時期を遅らせるなどしてひかえ目に見ても平均余命のほぼ半分である七年間程度の間は、平均して見て事故当時における旧高専卒の男子平均給与程度の収入は十分得ることができたものと推認しうると言わなければならない。そうすると、亡清己の逸失利益の算定にあたつてはその労働能力を抽象的に評価し、昭和四四年版賃金センサスにおける昭和四三年度の旧高専卒の男子労働者の平均年収である一三一万八四〇〇円をもととし、これを得るための必要経費としての亡清己の生活費、公租公課等はその家族構成から言つてその三分の一を超えることはないのでこれを控除して事故当時の亡清己の逸失利益の現価を算出するのが相当と認められる。そこで亡清己の事故当時における逸失利益現価を算出すると、次の計算のとおり五〇八万五七七二円となる。(五・七八六三は七年のライプニツツ係数)

一三一万八四〇〇円×三分の二×五・七八六三=五〇八万五七七二円

よつてこれに前記亡清己の過失を斟酌すると四八三万円をもつて、被告に請求しうべきものと認められ、前記認定事実から各自その三分の一宛法定相続していることが明らかであるので、その相続分は各自一六一万円となる。

(三)  慰藉料

一家の支柱である夫および父を失つた原告らの精神的苦痛は大きく、これに本件事故の態様その他諸般の事情を斟酌すると原告らには各自一〇〇万円をもつて慰藉するのが相当と認められる。

(四)  損害の填補

原告らが自賠責保険金三〇〇万円(各自一〇〇万円)を受領していることは原告らの自陳するところであるのでこれを右損害認容額から控除すると残額は原告菊代一九一万円、その余の原告ら各一六一万円となる。

ところで、被告は亡清己が死亡したことにより、その遺族には、地方公務員等共済組合法による遺族年金が支給されることになるから、これを逸失利益から控除すべき旨主張するので以下判断する。

まず、前記逸失利益の算定にあたつては、亡清己の労働能力を端的に評価し、同人の六二才以後の前記高校における就労、勧奨退職にあたつての退職金支給等の優遇措置恩給問題等をすべて捨象して、一般的、抽象的にこれを算出しているのであるから、遺族年金についてのみこれを取り上げてこれを損害の填補ないし損益相殺の対象とするのは問題があると言わなければならない。

確かに、同法五〇条一項によると、組合は給付事由が第三者の行為によつて生じた場合には、当該給付事由に対して行つた給付の価額の限度内で、給付を受ける権利を有する者(本件で言えば原告菊代)が第三者(本件で言えば被告)に対して有する損害賠償の請求権を取得する旨規定されているから、被告は組合からの請求があればこれに応じなければならないことになり、その意味で同年金の支給が損害の填補がないし損益相殺に全く親しまないと言うことはできない。

しかし、本件において事故後五年半近くも経過しながら組合が被告に対し給付した価額の請求を行つたという証拠は全くないし、被告が組合に対して給付した価額に応ずる金員を支払つたという主張もない。

これに加えて亡清己の逸失利益の算定にあたつては、亡清己の逸失利益の諸種の増額要素を捨象していること、同法五〇条二項により、給付を受ける権利を有する者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、組合はその価額の限度で、給付をしないことができる旨規定していることを考慮すると、原告菊代に遺族年金が支給されているという前提に立つたとしても、その給付分が、いかなる限度において、亡清己が生存していた場合、原告ら遺族に入る収入を填補して、なお被告から前記逸失利益の賠償によつて受ける金員を合わせれば財産的損害と目しえない部分があるかを確定することはできないと言わなければならない。

よつてこの点の被告の主張は採用できない。

(五)  弁護士費用

原告らが本訴追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、これに前記認容額、被告の抗争の程度その他諸般の事情を斟酌すると原告菊代二〇万円、原告太郎一五万円、原告美智子一五万円が本件事故と相当因果関係ある損害と認められる。

四  よつて被告に対し原告菊代が二一一万円、その余の原告らが各一七六万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四四年一月一八日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるので認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用については民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言については同法一九六条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木一彦)

別紙 〈省略〉

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